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執筆者の写真Masaya Onishi

Travel in Mali 2008 その2




エンデからさらに先に進む。少年たちがロバにまたがって後ろからついてくる。

ブレッドが「ロバを一頭買って、アフリカを横断したら楽しいだろうなぁ」とつぶやく。




この日宿をとった村の名前は忘れたが、小さな村にフランス人ツーリストが5人、僕らを入れて7人の観光客が、偶然一つの宿に集まった。それぞれ挨拶し、一つのテーブルを囲んだ。みなそれぞれの旅の話やお国の話で盛り上がる。

ブレッドはかつて友人と中米を旅していたとき、ひょんなことから一匹の豚を手に入れ、その豚と共にグアテマラやニカラグアを旅したという。しかしメキシコをバスで移動中、バスの車掌がその豚を嫌がり、ドアの隙間に押し込めて数時間後に死んでしまった。その後ブレッドは車掌と大喧嘩したそうだ。


ケニアに住んでいるというと、大統領選挙後の暴動について聞かれる。

自分が見たことを簡単に話すと、みなの顔が曇る。様々な映像がよみがえってきてち落込む。でも今はもう大丈夫だよと笑って答える。今はジンバブエが心配だねと。


食後ベビィがドゴンの面白い話をみなに話し始める。皆大笑いしているが、フランス語なのでさっぱりわからん。ふと耳に聞きなれない旋律が聴こえてきた。音のするほうへ行ってみると、たっぷりあごひげ生やしたおっさんが妙な弦楽器を弾いている。


四角い空き缶に反り返った棒を突き刺し、2本の細い針金を縛りつけただけの素朴な弦楽器だが、おっさんは上手に独特な旋律で弾きこなしている。


「それ何?」とたずねると


「ドゴンギターだ。」と自身満々に笑顔で答える。


横にいた別のおっさんが「この空き缶はオレのヤマハのエンジンオイルの空き缶だ。」と彼が誇らしげに指差した方向には125ccのヤマハがあった。彼はここの宿のオーナーで、自分の名はヤマハだという。そしてドゴンギターを弾いているひげのおっさんを指差して「日産ディーゼル」と言って笑った。「何か歌ってよ」とおねがいすると、2人は絶妙な掛け合いで歌いだした。すかさず2人を真似て一緒に歌いだすと、おっさんたち大喜びで盛り上がる。何度もお茶を振舞われ、ますます盛り上がるおっさんたちと共に、ドゴンギターは深夜までなりつづけた。




翌日フランス人トレッカーたちはそれぞれの方向へ、僕らも次の目的地ベンニャマトウ村へ向かう。

しばらく行くと、崖の上に向かって、急な坂道を登り始める。息が切れる。



ハァハァいいながら崖の中腹で一休みしていると、下から3人の少女たちが頭に大きな荷を載せて登ってくる。まだ小学生ほどなのに、この坂道を、20kはありそうな米袋のような荷を頭に載せて、うまくバランスをとりながら登ってくる。額に汗が滲んでいるが、息は切れていない。


「ボンジュー、レボンボン?」

ボンボンはないので、ペットボトルの水をあげた。


少女たちと共にさらに先へ進む。登りきると、左右を小高い崖に囲まれた広場のようなところに出た。岩々の間に木々が茂り、緑の絨毯、まん中の人が通る道だけ、土が踏み固められている。

ガイドのベビィが崖を指差して、「あそこに白骨があるの見える?」


よく見ると、崖の中腹のくぼんだところに、茶色くなった頭骸骨が見える。

ドゴンの風習で、人が亡くなると、遺体はまず崖のくぼみに放置される。当然鳥や動物たちが肉を食べる。そして2年から3年後、骨を拾い集め埋葬するのだそうだ。そのとき大きな埋葬式が催されるという。



さらに先へ進むと、見晴らしのいい崖の上に村が現れた、ベンニャマトゥ村だ。


村は小さな3つの集落に分かれていて、それぞれモスリム、クリスチャン、アニミストと分かれている。


崖の上で、ブレッドがロンドンの弟に電話をかけると、なんと電波が繋がる。

弟はロンドン中心街の高層ビルのオフィスの窓から街を見下ろしながら、丁度昼休みでランチに出かけるところだという。一方ブレッドは、100メートルはあろう絶壁の上で、地平線まで延々と広がる茶色い大地を見下ろしている。青い空には雲がたなびき、さわやかな風が吹き抜ける。





昼食後、ベビィやブレッドたちとはここでお別れ。ベビィが呼んでくれたブバカル少年とバンジャガラへ、ブレッドたちはさらに北へ向かう。




途中からバイクにまたがり道なき道を走る。いくつかの村々を通り過ぎ、一本道をひた走ると、あっという間にバンジャガラに到着。水を一気に飲み干し、マーボやデビッドたちに挨拶し、そのまま通りすがりのブッシュタクシーに飛び乗る。一路モプティへ。


ギュウギュウ詰めの暑苦しいブッシュタクシーに2時間揺られ、バニ川とニジェール川が交差する街、モプティに着く。街は車やトラック、バイクが行きかい、色鮮やかな装いの人々が青い空に映えて美しい。ロバ車やヤギや羊までもが闊歩している。川の対岸には独特な形をしたモスクが見える。


バマコからの夜行バスで知り合った、アブドゥライに電話をかける。うれしそうに電話に出たアブドゥライは、すぐに迎えに来てくれるという。アブドゥライを待っている間、冷たいコーラでのどを潤し、街を散策。橋を渡って対岸へ、モスクを通り過ぎ、みやげ物屋を覗く。様々な形の仮面や彫刻、アクセサリー類が並ぶ。楽器は置いてない。

さらに先へ進むと、賑やかなマーケットにたどり着く。

いたるところから聞こえてくる音楽。どれもマリ節利いててかっこいい。


アブドゥライから電話がかかってくる。

「今どこにいる?」

「え~と、モスクを通り過ぎたずっと先の、マーケットのすぐそば。」

「わかった、すぐ行くよ!」


数分後、バイクにまたがったアブドゥライが颯爽と現れた。

彼はトラックのドライバーをしていて、ナイジェリアやガーナにもよく行くそうだ。片言の英語も話せる。再会を喜び合い、そのままバイクで彼の住む村に向かう。


モプティの街を離れ、砂漠の中の一本道を走り出した頃、目前に強い風と共に黒い雨雲が立ち込める。と、大粒の雨が砂交じりの風と共に吹き荒れ始めた。


「イテテテッ!凄いなこれ。」


一旦引き返し、少し収まってからまた走り出すが、またもや雨風が吹き荒れる。

だいぶ街から離れてしまったので、もう後戻りも出来ない。バイクごと風で吹き飛ばされそうだ。

一本の木の下に非難。砂交じりの風が痛い!



顔を布でくるみ、風で飛ばされないよう足を踏ん張り、ずぶぬれになりながら嵐が過ぎるのを待つ。見ると隣の木の下にも、またその隣にも、必死に嵐をやり過ごそうとしている人の姿が。 凄まじい自然の力の前にし、人間なんてちっぽけに感じる。


しばらくして風がおとなしくなったので、またバイクにまたがり走り出す。



街を一つ通り過ぎ、夕焼けに染まる空の下、一本道をさらに進む。

空もすっかり暗くなった頃、ファトゥマ村に到着。アブドゥライのお母さん、妹、兄弟たちに歓迎される。

ずぶぬれの服を着替え、ほっと一息。熱いお茶で体が温まる。

アブドゥの母ちゃんがバンバラ語で話しかけてくるが、ほとんど解らない。

アブドゥの通訳と僅かに知っているバンバラで、雨がひどかったこと、風に砂が混じってて痛かったこと、お茶がとてもおいしいことを伝える。母ちゃん豪快に笑う。息子の友達は息子同然、ここを自分の家と思いなさいと。ありがたい言葉。

村に電気はなく、夜空には雲の隙間から星々が覗いている。

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